冬雑詠(1)
立冬も過ぎていよいよ本格的に冬に入るが、晩秋の風物として各地の大きな公園では、菊花展が開催されていた。近場では、大船フラワーセンター、横浜三溪園や小田原城がある。里山では、鳥兜に出会うし、石蕗の黄色い花が目立つ。
笹鳴の尾に笹の葉の揺れにけり
生垣に添ひて垂れたる烏瓜
ひこばえの田に青空の破片かな
ゆふぐれの木洩れ日に鳴く笹子かな
撮ることもうしろめたしや鳥兜
鳥兜あそこに咲くとささやきぬ
青信号しぐれの中を駈け出せり
金網に身を寄せ猿のひなたぼこ
赤帽の園児らと見る菊花展
猿啼くや本丸跡の菊花展
城跡の石垣くづれ石蕗の花
つはぶきや曲輪の跡を掘り起こす
懸崖の真白き菊や天守閣
門前に石仏ならぶ石蕗の花
つはぶきの朝日まぶしき下山かな
高峰を下山の安堵ゐのこづち
秋の鳶十王岩を見下せる
笹鳴に日の斑うつろふ山路かな
古民家の庭の椅子には竹トンボ人待ち顔に朝日をあぶる
鵙猛り笹子鳴くなる里山の小暗き森の朝清しも
街路樹の色付く道をバスにゆく青の信号赤の信号
ひとりとる昼食なれば鉄火巻鳥の照り焼き買ひて帰りぬ
溜池の杭に翡翠止りたりしばらく待てば飛び込みて翔つ
翡翠のとび込みて翔つ池の面にたまゆら残る音と波紋と
幹太く捻じれて枝をひろげたり樹齢不明のイヌマキの木は
雲ひとつ無き西空に孤立せり裾野は黒き冠雪の富士
人間の所業顔付みにくしとテレビに見ては絶望したり
裏山の岩場に張れる根も虚し大樹根こそぎ風に倒れる