瀧(2)
俳句と短歌の詩形の特徴に関連することだが、以下の水原秋桜子の句と前登志夫の歌を比べて見るのも興味深い。秋桜子の句は、昭和29年、那智の滝での作。(これは上田三四二に先んずること20年である。)一方、登志夫の歌は、現実の瀧でなく、森林の中に降り注ぐ萬緑のひかりを比喩(暗喩)しているのであろう。山仕事をしている自分の境遇を幸せに感じたのだ。現実の滝と比喩の滝。
山人(やまびと)とわが名呼ばれむ萬緑のひかりの瀧に
ながく漂ふ 前登志夫
宙空のみどりごに乳与へゐる滝の母性の轟きつづく
岩井謙一
みどり裂き滝一条に落ち白み音に吸ひこむ浄土幽けし
大滝貞一
全山の雨滴あつめて一口にはき出す如し激つ滝口
池田二美代
峡ふかく立ち氷(ひ)となりてしづまれる滝ありてわれの
心を誘(おび)く 岡野弘彦
凍りたる滝を見上げて立つわれは寒き柱を身の内にもつ
柏崎駿二