天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

病院(2)

杏林大学医学部付属病院にて

 病院施設と医師との関係について、施設利用が病院勤務医師に限定される型と地域の医師に解放される型がある。一般病院、療養型病院(長期入院)、特定機能病院(高度先進医療)の3タイプがある。


  クレヨン画いづれも大きく口あけて病む子等の思ひ叫び
  となれり             安福ちづ子


  焦燥もあきらめも浮世と少し違ひ病院といふ人生番外地
                   富小路禎子
  浮き沈み漕ぎたる舟の湊なる老人科病棟の昼はもの憂し
                    北沢郁子
  路加(ルカ)像の前よぎりきて緩和ケア病棟の柔き絨緞
  を踏む               雨宮雅子


  幾本もの管につながりしろじろと繭ごもる妻よ 羽化
  するか、せよ            桑原正紀


  夕べとなり廊を伝いて手さぐりに通うクリニックの
  残る黄昏              近藤芳美


  右脇よりドレインに抜ける濁り水わが胸に棲む夕やけの色
                   一ノ関忠人
  診察室で泣いてしまつた私を小さなトムが迎へてくれる
                    河野裕子
  ふかくふかく潜る鯨のしづかなり 酸素マスクに眠り
  ゐる人               熊岡悠子