天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

空蝉(続々)

鎌倉の山中にて

 平安時代以降にできた語で、「現人(うつせみ)」に「空蝉」を当てた結果だという。蝉のぬけがら、蝉、魂がぬけた虚脱状態の身、源氏物語の巻名 などを指す。古典和歌の例については、すでにこのブログの2010年9月2日や2011年9月12日に紹介しているので、以下にはそれらと重複しない例歌をあげる。


  空蝉の長き眠りの夢のあと風に吹かれてぐみの木にあり
                    大音千紘
  遠き萩それよりとほき空蝉の眸(まみ) 文学の余白と
  知れど               塚本邦雄


  黙ふかく夕目(ゆふめ)にみえて空蝉の薄き地獄にわが
  帰るべし             山中智恵子


  斧の傷ふかく背にもつ空蝉が蕗の広葉の朝露を呑む
                    島崎栄一
  空蝉のぬけがらひとつ枝に揺れ 生はしがみつくこと
  かもしれず             林田昌生


  空蝉に肌もて触るる納棺夫黒衣のわれの浅きを羞ぢぬ
                    松井春満