川(2)
鴨長明『方丈記』の書き出しの部分は、川が多くの人の心に喚起する情感をみごとに書ききっている。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、
久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。」
こうした心情は東洋人わけても日本人に共通するものであろうか。『方丈記』の影響も大きかったはず。
思へども人めつつみの高ければかはと見ながらえこそ渡らね
古今集・読人しらず
川の瀬になびく玉藻の水隠れて人に知られぬ恋もするかな
古今集・紀 友則
行く人も留まる袖の涙川みぎはのみこそ濡れまさりけれ
土佐日記・紀 貫之
かはとみてわたらぬ中に流るるはいはで物おもふ涙なりけり
後撰集・読人しらず
散りかかるもみぢ流れぬ大井川いづれ井堰(いぜ)きの水の
しがらみ 新古今集・源 経信