天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

紅葉狩―鎌倉紅葉谷―

鎌倉・紅葉谷にて

 鎌倉の寺には、それぞれの庭に黄葉する木々があって訪れる人たちを楽しませる。例えば瑞泉寺の本堂横の紅葉は、時期がくると真赤に燃え立つ。鎌倉の山中で規模の大きな紅葉としては、文字通り紅葉谷(獅子舞の谷とも)が一番だと思う。というわけでJR鎌倉駅からバスに乗り大塔宮、瑞泉寺、紅葉谷と歩いた。瑞泉寺の紅葉はまだ時期が早く緑が多かった。少し不安になって曇りがちの空の下、二階堂川の細い流れを遡って紅葉谷に行った。幸いに見ごろであった。谷底から上を見上げても見事、山上から見下すと更に雄大な景色が見られる。この場所をよく知っている人たちであろう、かなり多くのハイカーや生徒の集団に出会った。帰りは天園、覚園寺裏山、大塔宮と辿った。ただこの日は凩が吹いて帽子やマスクが飛ばされそうになった。


     月末の診察を待つマスクかな
     銀杏散る荏柄天神絵筆塚
     大塔宮凩に立ち尽くす
     瑞泉寺皇帝ダリアに迎へられ
     ガレージの車明らむ紅葉かな
     凩に木の葉降るなり瑞泉寺
     おほかたは銀杏のもみぢ散りつもる
     凩のこゑすさまじき木の葉かな
     見事なり誰が名付けし紅葉谷
     黄葉の谷戸に沈めり覚園寺
     腹切りしつはものが谷戸紅葉散る
     のり出して道に種吐く柘榴かな
     段葛さくら紅葉の散り敷ける
     凩の大路駈けゆく人力車


     
  紅葉にはいまだ間のある瑞泉寺皇帝ダリアが
  凩に揺れ


  「高いな」と言ひつつ籠に入れてゆくボジョレ
  ヌーボーと鷄のから揚げ


  この国の深海底に出会へりき黄泉阿代(よみのあしろ)
  とふ色なき幽魚