春潮(2)
江ノ島の裏側の海岸は、春潮の見所である。風の弱い平穏な日には、岩場に釣り人が多く出るが、風の強い日には波が逆巻き、海面は白く泡立って海鳴がとどろく。その海面に鴎が群れて浮かんでいる。羽色が茶褐色の幼鳥も混じっている。綺麗な声に振り向けば、懐かしいイソヒヨドリが近くの白い手すりに止まっていた。谷には赤い椿の花が散っている。断層の露わな階段横の草地には、諸葛菜が青紫の花を咲かせていた。
春風や椰子の木高き並び立つ
逆巻きて泡立つ春の潮かな
潮風にイソヒヨドリの春のこゑ
江ノ島の断層見えて諸葛菜
くれなゐを谷に散らせる椿かな
並び買ふ蛸姿焼島の春
逆巻きて泡立つ潮を横に見てうかぶ鴎の群たくましき
木道の白き手すりに止まりたるイソヒヨドリは春風に啼く
岩を噛む春のうしほの海鳴にイソヒヨドリのこゑ透き通る
潮風を避くるトベラの木の陰にちりちゅりちりちゅり春の雀は
いつも見る釣人今日は現れず巌(いはほ)に春の潮逆巻く
江ノ島の仲見世通りに人ならぶ買ひてうれしき蛸姿焼
丈高き松のみどりの梢には春風吹きて空青くする