絹
周知のように、絹(シルク)は、蚕の繭からとった動物繊維である。独特の光沢を持ち、古来より珍重されてきた。来月に世界遺産登録になる富岡製糸場について、NHK歴史秘話ヒストリアで内容を詳しく知ることができた。まことに感動させられた。明治日本の政治も国民(特に少女たち)も、進取の気性に溢れていたことが分った。昭和四十年頃まで、日本の産業の牽引役であったことを改めて思い出した。
西の市にただ独り出でて眼並べず買ひてし絹の商(あき)
じこりかも 万葉集・作者不詳
ひわ色の絹をかぎりなくひきいだす奇術師のその蛭の
やうな指 真鍋美恵子
垢すこし付きて痿(な)へたる絹物の袷の襟こそなまめか
しけり 岡本かの子
絹の上に一れんの真珠を置くなればもろもろの死の重き
ゆふぐれ 葛原妙子
豆凧の尾は吉野紙紐は絹辻よぎりゆく風にも揚がる
石本隆一
半睡のまなこの上を撫ずる絹このやさしさは亡き母ならん
香川 進
産むことを知らぬ乳房ぞ吐魯番(トルフアン)の絹に
包(くる)めばみずみずとせり 道浦母都子
絹の服かるがると着て秋の街先づはあしたの麺麭を
買ひたり 長野菀子
しなやかに肩に馴染める絹を着て何にこころの華やぎてゆく
青木ゆかり
手触れなば塵と舞ひたつ危ふさに草色の絹千年を耐ふ
栗原孝子