天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

泥の歌

泥

 泥とは水が混じって柔らかな土と定義されている。「ひぢ」はドロの古語。「ひぢ」に接頭語の「こ」がついて「泥(こひぢ)」と言うことも。これは恋路のかけことばとして使われる。他の言葉と結びついて負のイメージを与えることがある。泥棒、泥仕合、泥田、泥まみれ、泥水 など。
俳句では春泥が出て来るが、文字通り春の泥のことで、雪消や春雨からくるぬかるみであるが、春が来た悦びを感じさせる。


  しづかなる日の夕べにてそこはかとなく汀(みぎは)の
  泥に氷のこりつ            柴生田稔


  頑強なる抵抗をせし敵陣に泥にまみれしリーダーがありぬ
                     渡辺直己
  泥の上に階級章をちぎり捨て追はるれば又荷を包み行く
                     小暮政次
  泥水のしみくる靴に歩み来ぬ剥がれてビラの音たつるところ
                     小暮政次
  泥白く乾く路上に匂ひつつきらめき過ぎし清き耳環よ
                     大野誠
  素直なる花のつめたさと思ひつつ泥によごれしわが手を触るる
                     石川不二子


     婚礼の荷や春泥の照り翳り    岡崎るり子
     春泥を跳びジーンズの二度洗ひ   安井明子
     春泥にためらひの無き通学児    篠崎荘市