蟹(5)
川に生息する代表的な蟹は、沢蟹と藻屑蟹であろう。沢蟹は日本の固有種で、一生を淡水域で過ごす純淡水性。「さるかに合戦」で登場するカニである。藻屑蟹は、小笠原を除く日本全国、サハリン、ロシア沿海州、朝鮮半島東岸、済州島、台湾、香港周辺まで分布。なお、海で生れて川で過ごすカニもいる。
寂しからん未来と思ふ夕暮れし厨に蟹が白き泡吹く
松生富喜子
蟹二匹鍋に入れつつ「これレノン、これは由紀夫」と
前世判ず 仙波龍英
鉗(つめ)もげて諍ひすらもままならぬ蟹のすがたが夢寐
(むび)に顕つなり 水城春房
愛愛愛愛愛愛と八月の波打ちぎはを走るカニたち
吉岡生夫
茹で蟹のあから甲羅を横なぐるみぞれは哲久の憤怒おもはす
大滝貞一
永遠と刹那がひとつ海となる満月の夜に蟹ら婚姻すとふ
築地正子
ここはどこ海の恋しかー、厨にて五島育ちの蟹がつぶやく
平田利栄
潮ひけばチゴガニさりさり穴いでて春のひかりを砂ほど
散らす 影山美智子