狐(3)
「狐の嫁入り」という言葉もある。天気雨、日照り雨のことをさすが、この矛盾した気象現象を狐火のように妖しいと捉えたもの。狐火は、火の気のないところに、提灯とか松明のような怪しい火が一列になって現れ、ついたり消えたり、別の場所に現れたりするもの。正体を突き止めようとしても無駄に終る。
大雪山の老いたる狐毛の白く変りてひとり径を行くとふ
宮 柊二
かの山のいずべの方にありてなく強羅狐の声のさびしき
加藤克巳
人を騙す相とも見えぬ仔ぎつねは寄るともなしに吾を
離れず 川合千鶴子
芒野の穂をうす白く分くる雨日光(ひかげ)を帯びて狐が
走る 冨小路禎子
瀟洒なる狐の歩みきのこ蹴り赤き月の出に歩むけものら
前登志夫
狐憑きし老婦去りたるあとの田に花噛みきられたる
カンナ立つ 寺山修司
きつね妻(づま)子をおきて去る物語歳かはる夜に聞けば
身にしむ 岡野弘彦
地に触るるぎりぎりの高さ尾を曳きて白き狐はひとを
恋うとぞ 糸川雅子