天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌集『思川の岸辺』(1)

角川書店刊

 小池光さんの第九歌集である。刊行されてからすぐに購入して読んだ。今後、飛び飛びになるが10回程度にわたって、このブログで特徴を分析してみたい。
 初めに短歌でどこまで私事・家族のことを表現するのか、ということを考えさせられた。現代歌人に例をとると次のようなことになるか。


*あからさまにさらけ出して表現: 小池光、永田和宏
*比喩にしてあからさまを避ける: 岡井隆
*文芸作品を意識してフィクションにする: 寺山修司
*私事・家族のことはほとんど詠まない: 塚本邦雄


次に小池光『思川の岸辺』と永田和宏『たとえば君―四十年の恋歌』とから奥さんに対する愛情について、考えさせられた。二人とも奥さんを癌で亡くしている。
   小池の妻・和子: 家庭人   出会って48年
   永田の妻・河野裕子: 歌人  出会って40年
永田と河野の歌群から相聞の対を作ることは容易。相聞の対を作ってみて感じるのは、あまりにもよく照合する対が多いということ。あたかもその場で二人が歌を交し合ったごとくである。
『思川の岸辺』の歌から、小池夫妻と永田夫妻の関係がわかるような気がする。
永田の妻・河野裕子さんが亡くなった時には、
   裕子さんの死をつひに告げ得ざるまま秋に逝きたりわが妻和子
小池の妻・和子さんが亡くなった時には、
   永田和宏がおくりてくれし蘭の花百日あまりを咲きてをはりぬ