船の歌(1/10)
先ず万葉集に詠われた船の歌をとりあげよう。その中で「志賀の辛粼」は、万葉集・柿本人麿の歌以来、歌枕となったが、奈良時代以前から地名として見られ、滋賀郡に属し、唐崎・韓崎・辛前 などとも書かれた。
ささなみの志賀の辛崎幸(さき)くあれど大宮人の船
待ちかねつ 万葉集・柿本人麿
天の河安(やす)の渡(わたり)に船浮けて秋立ち待つと妹に
告げこそ 万葉集・柿本人麿歌集
渡守(わたりもり)船渡せをと呼ぶ声の至らねばかも楫(かぢ)の
音(と)のせぬ 万葉集・作者不詳
潮待つとありける船を知らずして悔(くや)しく妹を分れ来にけり
万葉集・作者不詳
白崎(しらさき)は幸(さき)くあり待て大船(おおふね)に真楫
(まかぢ)繁貫(しじぬ)きまたかへり見む
万葉集・作者不詳
世間(よのなか)を何に譬(たと)へむ朝びらき漕ぎ去(い)にし
船の跡なきがごと 万葉集・沙弥満誓
防人の堀江漕ぎ出(づ)る伊豆手舟(てぶね)楫(かぢ)取る間なく
恋はしげけむ 万葉集・大伴家持
沖つ波辺波(へなみ)静けみ漁(いさり)すと藤江の浦に船ぞ騒ける
万葉集・山部赤人
いづくにか船泊(は)てすらむ安礼(あれ)の崎漕ぎたみ行きし
棚無し小舟(をぶね) 万葉集・高市黒人