船の歌(2/10)
難波江(なにわえ)は、上代、大阪市の上町台地の西側まで来ていた海域の古い呼び名である。難波潟とも。歌枕になった。港の難波津があり、浅い海だったので航路を示す澪標(みをつくし)が立てられ、あたり一面に葦(あし)が生い茂っていた。
白波のあとなきかたに行く船も風ぞたよりのしるべなりける
古今集・藤原勝臣
はるばると雪居をさして行く舟の行末とほくおもほゆるかな
拾遺集・伊勢
世のなかを何にたとえむ朝ぼらけこぎゆく舟のあとの白波
拾遺集・沙弥満誓
難波江のしげき蘆間をこぐ船はさをのおとにぞゆく方をしる
詞花集・源行宗
追風にやへの汐路を行く舟のほのかにだにも逢ひ見てしがな
新古今集・源師時
よもすがらうら漕ぐ舟はあともなし月ぞのこれるしがの辛粼
新古今集・宜秋門院丹後
花さそふ比良の山風ふきにけり漕ぎ行く舟のあと見ゆるまで
新古今集・宮内卿
かき曇り夕立つ波の荒らければ浮きたる舟ぞしづ心なき
新古今集・紫式部