駅(1/10)
鉄道の停車場のことだが、奈良時代、大宝令により官道に設けられた「うまや」「うまつぎ」の意味の言葉を近代のステーションに充てたもの。馬が車に置き換わったのである。
鈴が音(ね)の早馬駅家(はゆまうまや)の堤井(つつみゐ)の
水をたまへな妹が直手(ただて)よ 万葉集・東歌
厩(うまや)なる縄絶(た)つ駒の後(おく)るがへ妹が言ひし
を置きて悲しも 万葉集・防人の歌
駅々(うまやうまや)ふるき衣(きぬ)着てあきかぜの中山道は
老いにけるかな 佐佐木信綱
たまたまに汽車とどまれば冬さびの山の駅(うまや)に人の音すも
島木赤彦
頸(くび)ふり馬、頸をふれるに日は暮れぬ厩のまへの一もと
臭木(くさぎ) 前田夕暮
夕ふかしうまやの蚊遣(かやり)燃え立ちて親子の馬の顔
あかく見ゆ 古泉千樫
山の駅の歩廊に吹かれ佇つ人らひとつひとつの夕影を負う
前田 透
旗ばかり人ばかりの駅高い雲に弾丸(たま)の速度を見送
つてゐる 加藤克巳
群衆を奪ひ去られし春夜の駅あえぎあえぎ昇る水銀柱あり
浜田 到