花狂い(6)
桜の花が散ると海棠の花が咲く。というわけでまた鎌倉にやってきた。段葛の新しい桜並木はみごとに若葉の並木に変っていた。鎌倉の海棠は、妙本寺、海蔵寺、光則寺の三カ所が有名。今回は、妙本寺、海蔵寺に行くことにした。妙本寺の横並びには、常栄寺、八雲神社があるので、そちらにも寄ってみた。鎌倉駅から海蔵寺に向かう途中には、尼寺の英勝寺があるが、今回は塀の外を過ぎたのみ。妙本寺では、海棠に並んで八重桜が暑苦しいくらいの花が垂れていた。八雲神社境内の楠の根方には、以前にも紹介したが「新羅三郎手玉石」ふたつが置かれている。この楠の若葉がすばらしく美しかった。海蔵寺のやぐらの前には、山吹の花が横広がりに咲いていた。
御仏の手につながらむ花海棠
神木の楠若葉せり手玉石
尼寺や胡蝶花ともいふ著莪の花
網かくる生ごみさへも食ひ散らし朝方に去るハシブトガラス
プラスチックごみの収集日にも来てあたり窺ふハシブトガラス
鎌倉の花見にゆかむ電車待つ吾を見上ぐる足元の鳩
雨風の日は閉ぢこもり晴れの日は花に狂ひて鎌倉めぐる
海棠の花咲く庭に柱立つ「一天四海皆帰妙法」
本堂の御仏の手につながれる紐むすびたり庭の柱に
立札は「新羅三郎手玉石」楠の若葉の匂へる庭に
今の世に残れるふたつ手玉石新羅三郎がからだ鍛へし
扇ガ谷(やつ)四丁目の道わが来ればいろはもみぢの若葉けぶれる
石塔は古りて欠けたり海蔵寺やぐらの前の山吹の花
一日を花に狂ひて疲れたり夕餉にと買ふトロの鯖寿司
[参考1]一天四海皆帰妙法
一天四海は世界を指し、妙法は法華経のこと。日蓮宗は、
「一天四海皆帰妙法」を目標にしている。即ち、世界中の人が
「南無妙法蓮華経」と唱えればいい、という思想。
[参考2]新羅三郎(源義光)と鎌倉
義光が兄義家に従って「後三年の役」に出陣するため鎌倉を訪れた際に、
疫病が流行っていたため、京都の祇園八坂社の祭神を勧請したのが大町
の「八雲神社」のはじまりとされる。