天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雨のうた(4)

歌川広重の浮世絵から

 良寛の歌にある「裳(も)のすそ濡れぬ」は、万葉集の歌(例: 霞立つ天の河原に君待つといゆきかへるに裳の裾ぬれぬ)からの転用である。彼が万葉集に親しんだのは、国上山(くがみやま)にある真言宗国上寺(こくじょうじ)の五合庵に定住して、近隣の村里で托鉢を続け子どもたちと遊んだ五十歳前後の頃らしい。



  秋の雨の晴れまに出でて子どもらと山路たどれば裳(も)の
  すそ濡れぬ                良寛


  池水は濁りににごり藤なみの影もうつらず雨ふりしきる
                    伊藤左千夫
  車前草(おほばこ)は畑(はた)のこみちに槍立てて雨のふる日は
  行きがてぬかも            長塚 節


  青山の町蔭の田の水さび田にしみじみとして雨ふりにけり
                     斎藤茂吉
  山をおほふ雨のひびきを聞きたりとのちの世の人われを偲ばね
                     斎藤茂吉
  廃れたるごとき廓(くるわ)のひそか雨海鳥は下りて路に飛べるも
                     中村憲吉
  春の雨下谷(したや)に降ればまづ濡るるひとつの傘はわれら
  なるらむ               吉井 勇
  馬鈴薯のうす紫の花に降る雨を思へり都の雨に
                     石川啄木