西村陽吉(本名:西村辰五郎)は出版社・東雲堂書店を経営し、石川啄木『一握の砂』『悲しき玩具』、斎藤茂吉『赤光』、北原白秋『桐の花』、若山牧水『別離』など、文学史に残る歌集を出版した人物。歌人としても活躍し、口語短歌の先駆けの一人として知られる。
雨しぶく今朝の笹葉の寒風(さむかぜ)に頭すぼめて飛ぶ
雀かな 北原白秋
見上ぐれば端山(はやま)繁山(しげやま)の上の空ただに
をぐらみ雨は降るなり 木下利玄
庭つ鳥鶏(かけ)の鳴く音もさびしけれ日照雨(さばえ)降り
つぐ晝のふかきに 石井直三郎
永い永い饐ゑ腐る雨だ 地の上にも生きながら腐る人間がある
西村陽吉
轟きし雨は地平に霽れゆきて夕日のなかに雲ぞかがよふ
山本友一
門灯のあかりの幅にふる雨のかく飛沫(しぶき)きつつ暁に
及ばむ 宮 柊二
売れ残る夕刊の上石置けり雨の匂ひの立つ宵にして
近藤芳美
この午後を巷にぬくき雨ふれど恋人たちはいずこにひそむ
岡部桂一郎