天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雨のうた(10)

歌川広重の浮世絵から

 現在の地上の生物は、太古、海から生まれたとされる。そのせいで水がないと生きられない。陸上の水分は、天からの雨や雪によりもたらされる。その元は海や湖水、河川から蒸発する水分である。
この水の大気循環が、地球の生物を活かしている。こんな理屈を詩にしたのが、今野寿美の歌である。



  いつのまに降りはじめたる雨ならむ夢にまで降り額髪濡らす
                    宮本永子
  たれか来てしだきてゆきし草はらの苦しき起伏雨よやさしめ
                   黒木三千代
  音ひびく十方の雨、豪傑の闇討さるるくだりとなりて
                    竹山 広
  木曜のひる過ぎの雨「晩(おそ)すぎる、噫おそすぎる。」
  嘆かひありて            岡井 隆


  ゆつたりと廂に到(いた)る大いなる反(そ)りこそ見ゆれ雨
  絶えまなく             岡井 隆


  葉桜の緑を溶かす雨のなかガラスのごとき傘さしてゆく
                    吉田員子
  水無月の光を曳きて雨は降る水から生まれしものたちのため
                    今野寿美
  花にふるあかつきがたの細き雨ともしびは届くその花のへに
                    吉田正俊