天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

長雨(ながめ)

カシワバアジサイ(俣野別邸庭園に

 「雨のうた」のシリーズでは、季節を特定しない「雨」という言葉を含む歌をとり上げた。歌が対象とする季節の判断は、「雨」以外の言葉から判断する他はなかった。一方、季節がはっきり分る雨の言葉がある。「春雨」「五月雨」「時雨」などである。これらの歌については別途述べるが、ここでは「長雨」について註釈しておく。なお漢字では、「霖雨」を当てる場合もある。「長雨」は、長く降り続く雨、という意味であり、季節は決まらない。それで「春の長雨」とか「秋の長雨」というか、歌の中の別の言葉から季節を特定することになる。
以下のように、万葉集に二首、古今集に三首ほど詠まれているが、新古今集には詠まれていない。周知のように、古今集では掛詞として使われている。鑑賞する場合に「長雨」に触れることが肝要。


  秋萩を散らす長雨(ながめ)の降るころはひとり起き居て
  恋ふる夜ぞ多き          万葉集・作者未詳


  卯の花を腐(くた)す霖雨(ながめ)の水始(みづはな)に縁(よ)る
  木糞如(こづみな)す縁らむ児もがも 万葉集大伴家持


  花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめ
  せしまに             古今集小野小町


  つれづれのながめにまさる涙川袖のみ濡れてあふよしもなし
                   古今集藤原敏行

  起きもせず寝もせで夜をあかしては春のものとてながめ暮らしつ
                   古今集在原業平