月のうた(6)
二首目の景式王(かげのりのおおきみ)の生没年は不詳だが、897年には従四位下にあった。「小夜ふけて」の歌は、なんとも勇壮である。「夜が更けて、半ば終りに近づいているあの月を吹き返してくれ、秋の山風よ」という意味。月に帰っていったかぐや姫を想像させるようでもある。
あかねさす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも
万葉集・柿本人麻呂
小夜ふけてなかばたけゆく久方の月吹き返せ秋の山風
古今集・影式王
おしなべて峯もたひらに成りななむ山のはなくば月も隠れじ
後撰集・上野岑雄
ながむればおぼえぬこともなかりけり月や昔のかたみなるらむ
金葉集・藤原有教母
群雲に隠れあらはれ行く月の晴れもくもりも秋ぞかなしき
風雅集・永福門院
心をば見る人ごとに苦しめて何かは月のとりどころなる
山家集・西行
世々の人の月はながめしかたみぞと思へ思へば濡るる袖かな
木下長嘯子