月のうた(8)
高安国世は、以前にも触れたが、リルケを専門とするドイツ文学者である。よって、「利鎌」をドイツ語読みの「ジツヒエル」とした。斎藤 史の「月 神のごとく昇るに」は、ユーモアがあって思わず笑ってしまう。窪田空穂の歌は、竹取物語を創作した奈良・平安の頃の人を詠んでいる。
しばらくは息つめて遠きものを恋う櫻の上の赤く圓き月
高安国世
午後一時 空半円に夕映えて南に低し月の利鎌(ジツヒエル)
高安国世
遠景に月さすときに響(な)りいづる言葉のひとつ蒼邃(ふか)きかも
斎藤 史
月 神のごとく昇るにあやまちて声もらしたる森のかなかな
斎藤 史
月の中に美(くは)し女(め)ひとりつれづれと棲(す)むと
眺めき遠つ代の人 窪田空穂
昨日見ず明日の知られず今宵逢ふ月はめでたし逝く秋の空
窪田章一郎
夜おそく出でたる月がひっそりとしまい忘れし物を照らしおる
山崎方代