月のうた(10)
古今東西を問わず、日(太陽)は生命の象徴、月は死の象徴である。実際に月面に降り立った飛行士たちもそのように感じたであろう。地球のかけがえのない美しさを痛感した。月光の下の接吻も、死と生の対比と見えて哲学的でさえある。
月の砂踏む感触を伝へつつ「静かの海」に立つひとの声
木下孝一
人形劇の観衆去りし石の道接吻する若ものにほっかりと月
前田 透
かずかずの痛苦きらめき長き夜を月射せば月の香魚(あゆ)
となりいる 前田 透
月に立ちし日のごとくまた死者をたづねあつる瞬間のあり
とこそ思へ 石川恭子
かげりなき砂原のうえ月させばしずかに湧けるいずみのごとし
玉井清弘
死の月の石にさしゐる日の光さびしきものを人は見にけり
安田章夫