天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

風の詩情(2)

歌川広重の浮世絵から

 二首目の歌は、なんともおおらかで微笑ましい。娘が恋している若者を、母に内緒で部屋に通そうとしている場面である。歌の意味は、「 小簾(おす)のすきまから入って通ってください。母が聞いたら、風だよって言いますから。」「玉垂の」は玉に緒を通すところからここでは「小」にかかる枕詞。「たらちねの」は周知のように「母」の枕詞である。


  我が宿のい笹群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも
                 大伴家持万葉集
  玉垂の小簾のすけきに入り通ひ来ねたらちねの母が問は
  さば風と申さむ         古歌集『万葉集


  風をいたみいたぶる波の間なく我が思ふ妹は相思ふらむか
                 作者未詳『万葉集
  国遠み思ひなわびそ風の共雲の行くごと言は通はむ
                 作者未詳『万葉集
  あしひきの山道は行かむ風吹けば波の塞ふる海道は行かじ
                 作者未詳『万葉集
  伊香保風吹く日吹かぬ日ありと言へど我が恋のみし時
  なかりけり          作者未詳『万葉集


  風の音の遠き我妹が着せし衣手本のくだりまよひ来にけり
                 作者未詳『万葉集
  橘の下吹く風の香ぐはしき筑波の山を恋ひずあらめかも 
                 占部広方『万葉集