天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

風の詩情(4)

歌川広重の浮世絵から

 一首目の歌は、浮気心を恨む心情を表現している。「いたみ」は「強いので」の意。主体が男か女かは別として、「思はぬ方にたなびいた煙」は相手の心と解釈される。この歌は「伊勢物語」第一一ニ段にとられていて、そこでは男が女の浮気心を詠ったものとしている。


  須磨のあまの塩やく煙風をいたみ思はぬかたにたなびきにけり
                読人しらず『古今集
  風ふけばおきつ白浪たつた山よはにやきみがひとりこゆらむ
                読人しらず『古今集
  吹く風を鳴きてうらみよ うぐひすは我やは花に手だにふれたる
                読人しらず『古今集
  吹く風と谷の水としなかりせばみ山隠れの花を見ましや
                  紀貫之古今集
  吉野川岸の山吹吹く風に底の影さへうつろひにけり
                  紀貫之古今集
   世の中はかくこそありけれ吹く風の目に見ぬ人も恋しかりけり
                  紀貫之古今集
   あしたづの立てる川辺を吹く風に寄せてかへらぬ浪かとぞ見る
                  紀貫之古今集
  紅葉せぬときはの山は吹く風の音にや秋を 聞き渡るらむ
                  紀淑望『古今集