天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

風の詩情(6)

歌川広重の浮世絵から

 ここで少し見方を変えて、吹く場所を意識した風の歌に注目してみよう。


 *浜風
   もろ人のねがひをみつの濱風にこころ涼しきしでの音かな
                    慈円新古今集
 *浦風
   さ夜ふけて葦のすゑ越す浦風にあはれうちそふ波の音かな
                    肥後『新古今集
 *山風
   花さそふ比良の山風吹きにけり漕ぎ行く舟のあと見ゆるまで
                   宮内卿新古今集
   ほのぼのと有明の月の月影に紅葉吹きおろす山おろしの風
                   源信明新古今集
 *川風
   河風のすずしくもあるかうちよする浪とともにや秋はたつらん
                    紀貫之古今集
   今日まつる�撥のこころや靡くらむしでに波立つ佐保の川風
                  藤原忠通新古今集
 *谷風
   谷風にとくる氷のひまごとに打ち出づるなみやはるのはつ花
                    源当純『古今集
 *土地
   采女の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く
                   志貴皇子万葉集
   伊香保風吹く日吹かぬ日ありと言へど吾が恋のみし時無かりけり
                 よみ人しらず『万葉集
   吾がせこが著る衣薄し佐保風はいたくな吹きそ家にいたるまで
                 大伴坂上郎女万葉集
   相坂(あふさか)の関のせきかぜ吹く声はむかし聞きしにかはらざりけり
                      『更科日記』
   泊瀬風かく吹く宵は何時までか衣片敷き吾が独り寝む
                 よみ人しらず『万葉集