天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

風の詩情(12)

台風の雲(気象庁提供)

 嵐の続きである。
 *台風
  明治以降に使われ始めた気象用語。語源は、ギリシア神話
  巨大な怪物テュポンに由来する「typhoon」という説が有力。

   夜ひと夜(よ)家(や)なりどよめく颱風のそのなかにしも
   虫の鳴きゐる              茅野雅子


   吹きつのる颱風のなかに鵙が来てたまゆら鳴きし声は
   徹(とほ)れり              川田 順


   颱風の眼に入りたる午後六時天使領たるあをぞら見ゆる
                       小池 光

 *木枯し、凩
  木を吹き枯らすものの意。秋の末から冬の初めにかけて吹く強く冷たい風。
  冬の季語。
   こがらしの雲吹きはらふ高嶺よりさえても月の澄みのぼるかな
                    源 俊頼『千載集』
   山里は秋の末にぞ思ひ知る悲しかりけり木枯の風
                      西行山家集
   高円の野路のしの原末さわぎそそや木がらし今日吹きぬなり
                   藤原基俊『新古今集
   木枯の風にもみぢて人知れずうき言の葉のつもる頃かな
                   小野小町新古今集
   凩を聴きておもふはすでに亡き友啄木がありし日のこと
                       吉井 勇


     凩の果てはありけり海の音      池西言水
     海に出て木枯し帰るところなし    山口誓子
誓子は言水の句を意識して作ったであろう(本歌取り)。言水の句では、凩の果ては海の音になると春を予感させるような気分であるが、誓子の方は、絶望的である。戦時下の昭和19年11月の作で、作者・誓子はこの句を、特攻隊を悼んで作った句と解説している。


[註]池西言水
  奈良の人。松江重頼の門人。後に談林俳諧に移り、芭蕉との交友が始まる。
  「凩の果てはありけり海の音」が高く評価され、「凩の言水」との異名が
  ついた。