天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雲のうた(8)

高積雲(ひつじ雲)

 一首目は、日本最初の和歌として有名。八雲は、八重に(幾重にも)重なり合った雲。この歌に因んで「八雲立つ」・「八雲さす」は出雲にかかる枕詞になった。素盞嗚尊は八岐大蛇を退治したあと稲田姫とともに、この歌のような新居を営んだのだが、その場所には、八重垣神社が建っている。


  八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣を
                須佐之男命『古事記
  わたつみの豊旗雲に入日さし今夜(こよひ)の月夜(つくよ)
  さやけかりこそ        天智天皇万葉集


  かくのみし恋ひや渡らむ秋津野にたなびく雲の過ぐとはなしに
                 大伴千室『万葉集
  春日野に朝ゐる雲のしくしくに吾は恋ひまさる月に日に異(け)に
                 大伴像見『万葉集
  白雲のたなびく山の高々に我が思ふ妹を見むよしもがも
               大伴田村大嬢『万葉集
  はろはろに思ほゆるかも白雲の千重に隔てる筑紫の国は
                  吉田宜『万葉集
  天雲の行き帰りなむものゆゑに思ひぞ我がする別れ悲しみ
                藤原仲麻呂万葉集
  天雲のそきへの極み我が思へる君に別れむ日近くなりぬ
               阿倍朝臣老人『万葉集


 最後の歌は、題詞に「阿倍朝臣老人が唐に遣わされた時に、母に捧げた別れを悲しむ歌一首」とある。「そきへ」は、遠く離れたところ。遠方。果て。


[注]右上の画像は、web「雲の種類と名前」 http://asukainfo.com/kumo
   から借用した。