天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雲のうた(15)

横浜市東俣野の秋の空

 次には新古今集の女性の雲の作品を見てみよう。式子内親王の歌はすっきりした嘱目詠だが、他はみな女心の暗さ悲しさが現れている。周防内侍は二条院讃岐よりも50年くらい先輩だが、ふたりとも内裏女房として出仕し、時の天皇に仕え、内裏歌壇で評価されていた。皇太后宮大夫俊成女は、祖父藤原俊成の養女になったので、こうした名前になった。二条院讃岐と同時期の歌人


  かくしつつ夕べの雲となりもせばあはれかけても誰か忍ばむ
                  周防内侍『新古今集
  ゆふだちの雲もとまらぬ夏の日のかたぶく山に日ぐらしの聲
                 式子内親王新古今集
  北へゆく雁のつばさにことづてよ雲のうはがきかき絶えずして
                   紫式部新古今集
  めぐり逢ひて見しやそれともわかぬまに雲隠れにし夜はの月影
                   紫式部新古今集
  下もえに思ひ消えなん煙だに跡なき雲のはてぞ悲しき
             皇太后宮大夫俊成女『新古今集
  昔見し雲ゐをめぐる秋の月今いくとせか袖にやどさむ
                 二条院讃岐『新古今集
  世の中に猶もふるかな時雨つつ雲間の月の出でやと思へど
                  和泉式部新古今集
  夕暮は雲のけしきを見るからに眺めじと思ふ心こそつけ
                  和泉式部新古今集