雲のうた(17)
歌枕の「末の松山」については、陸奥を襲った巨大津浪に関係することを以前に解説したことがあるので、ここでは触れないが、藤原家隆の歌はのどかな叙景になっている。
真夜中に飛んで行く雁の鳴き声を聞くと、最後の読人しらずの歌のような感情移入になるのであろう。
麓まで尾上の桜散り来ずばたなびく雲と見てや過ぎまし
藤原顕輔『新古今集』
秋風にたなびく雲の絶えまよりもれ出づる月の影のさやけさ
藤原顕輔『新古今集』
霞たつ末の松山ほのぼのと波にはなるる横雲の空
藤原家隆『新古今集』
十市には夕立すらしひさかたの天の香具山雲がくれゆく
源 俊頼『新古今集』
露すがる庭の玉ざさうち靡きひとむら過ぎぬ夕立の雲
権中納言公経『新古今集』
おのづから涼しくもあるか夏衣ひもゆふぐれの雲のなごりに
藤原清輔朝臣『新古今集』
故郷に帰る雁がねさ夜更けて雲路にまよふ声聞こゆなり
読人しらず『新古今集』