天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雲のうた(20)

秋

 一首目の「西へゆく雲」は、西方浄土へ行く雲のこと。清少納言の歌は、初出仕して間もない頃、二三日実家に帰っていた清少納言のもとに、中宮・定子から「あなたがいないと、どう過ごしてよいのか分からない」と言ってきたのに対する返事。


  西へゆく雲に乗りなんと思ふ身の心ばかりは北へゆくかな
                      和泉式部
  てりもせず曇りもいでぬ冬の日の空行く雲はうちしぐれつつ
                      宗良親王
  *大江千里「照りもせず曇りもはてぬ春の夜のおぼろ月夜にしく物ぞなき」
   『新古今集』 が本歌である。


  今ぞ知る思ひのはてよ世の中のうきくもにのみまじる物とは
                   平 忠盛『金葉集』
  雲のうへも暮しかねける春の日をところがらともながめつるかな
                   清少納言『千載集』
  ほととぎすなほ初声を信夫山夕ゐる雲のそこに鳴くなり
                  守覚法親王『千載集』
  雲のうへの春こそさらに忘られね花は数にも思ひ出でじを
                   藤原俊成『千載集』
  天の原ふきすさみたる秋風に走る雲あればたゆたふ雲あり
                      楫取魚彦
  *楫取魚彦(かとりなひこ)は、江戸時代中期の国学者歌人で、
   本名は伊能景良。同郷で遠縁の親族に測量家の伊能忠敬がいる。


[注]右上の画像は、
     「徒然ピータン」 http://h-mahoroba.net/?p=1204
   から借用した。