天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌枕―小夜の中山

小夜の中山にて

 「さやのなかやま」と読む。静岡県掛川市と小笠郡との間の山で、五十三次の金谷・日坂の間にある。「なかなかに」「さやかに」を伴う同音反復表現が多い。
 西行は、歌から分るように二度、この山を越えた。28歳と68歳の時である。奥州藤原氏西行の一族であった。この有名な歌枕は私も二度訪ねた。街道の両側の茶畑が強く印象に残っている。


  甲斐が峰をさやにも見しかけけれなくよこほりふせる
  さやの中山           『古今集・東歌』


  東路のさやの中山なかなかに何しか人を思ひそめけむ
                  紀友則古今集
  東路のさやの中山なかなかにあひ見てのちぞわびしかりける
                  源宗于後撰集
  旅寝する木の下露の袖にまた時雨ふるなりさよの中山
                   覚弁『千載集』
  東路のさやの中山さやかにも見えぬ雲ゐに世をやつくさむ
                壬生忠岑新古今集
  年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山
                  西行新古今集
  ふるさとの今日の面影さそひ来(こ)と月にぞ契る小夜の中山
                藤原雅経『新古今集
  岩が根のとこにあらしを片しきてひとりや寝なむ小夜のなか山
                藤原有家新古今集
  光そふ木の間の月におどろけば秋もなかばのさやの中山
                藤原家隆『新勅撰集』
  東路のさやの中山こえて往(い)なばいとど都や遠ざかりなむ
                源実朝金槐和歌集
  東路のさやの中山さやかにもみぬ人いかで恋しかるらん
                     香川景樹


  西行のたどりし道の両側に茶畑はあり小夜の中山