天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌枕―箱根

神山(大涌谷にて)

 箱根、箱根山、箱根路は相模国の歌枕。「箱」と掛詞にして、「ふた(蓋、二)」「み(身、三)」「あく(開、明)」などの縁語を用いたり、枕詞「玉くしげ」を冠して詠まれることが多かった。足柄との組合せで詠むことも。


  足柄の箱根の山に粟蒔きて実とはなれるを逢はなくもあやし
                  作者不詳『万葉集
  足柄の箱根の嶺(ね)ろの和草(にこぐさ)の花つ妻なれや
  紐解かず寝む          作者不詳『万葉集


  あけぬまに箱根の山の郭公(ほととぎす)二声とだに鳴き
  渡るらむ              「行平家歌合」


  あけくれの心にかけて箱根山二年(ふたとせ)三年(みとせ)
  いでぞたちぬる             『相模集』


  玉くしげ箱根の海はけけれあれや二(ふた)山にかけて何か
  たゆたふ           源実朝金槐和歌集


  箱根路をわが越えくれば伊豆の海や沖の小島に波のよるみゆ
                 源実朝金槐和歌集
  玉くしげはこねの山の郭公(ほととぎす)むかふのさとに朝な
  朝ななく           源実朝金槐和歌集


  箱根路や雲の絶間に見渡せば初雪ふれり峰の岩角
                      加藤千蔭
  玉くしげ箱根の空をながむればふたごの山に雲たちのぼる
                      正岡子規



  玉くしげ箱根の山に棲む猿は餌をもとめて市中(いちなか)に出づ
  小田原の宅地農地に現れて食べ物あさる箱根の猿は