わが歌枕―足柄
神奈川県西部、静岡県寄りの地域。足柄山は神奈川県と静岡県にまたがる金時山の北につらなる山。坂田金時や山姥の伝説がある。北の端が足柄峠。東の麓に足柄の関があった。
万葉集には、17首も詠まれている。これは驚くべき数であろう。
足柄の箱根飛び越え行く鶴(たづ)のともしき見れば倭(やまと)
し思ほゆ 作者不詳『万葉集』
わが行きの息衝(つ)くしかば足柄の峠延(は)ほ雲を見とと
偲はね 服部於田『万葉集』
あしがらの八重山ざくら咲きにけり春の嵐のせき守もがな
小沢蘆庵
鳥総(とぶさ)立て足柄山に船木(ふなき)切り樹に伐り行きつ
あたら船材(ふなき)を 沙弥満誓『万葉集』
雪解くる茂(し)みみに拉(しだ)くかざさきの道行きにくき
足柄の山 西行『山家集』
東路の関守る神の手向けとて杉に矢たつる足柄の山
源 実朝『金槐集』
あしがらの山のやまびことよむなりいづれの峯に舟木きるらむ
村田春海
足柄のふもとの田居に胆太く新しき生を創めなむとす
川田 順
足柄の関のやまぢを行く人はしるも知らぬもうとからぬかな
真静『後撰集』
足柄の関路こえゆくしののめにひとむらかすむ浮島が原
藤原良経『新勅撰集』
秋まではふじの高嶺にみし雪を分けてぞ越ゆる足柄の関
藤原光俊『続古今集』
あしがらの関の山路をこえ来れば夏ぞさくらは盛りなりける
加茂真淵
手作りの調(てふ)の布はこぶと足柄の山を越えけむ汗を
垂りつつ 窪田章一郎