天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

空間を詠む(1)

湖の空間(webから)

 空間という言葉が歌の中に現れると、古典短歌の印象とは全く違って、理知的現代的になる。新しい認識が得られたという感じである。 
 空間をよく詠んだ女性に真鍋美恵子さん(1906―1994)がいる。岐阜県出身で「心の花」会員。88歳で逝去されたが、発表当時はかなり新鮮に受け止められたであろう。


  空間がふしぎなる黄となる夕べ男はをりて湖に網打つ
                   真鍋美恵子
  クレーンよりたるる鉤肉塊を吊らば空間の安定なさん
                   真鍋美恵子
  藤の莢垂りたる下の空間が明るきに折々鳴くひよどりは
                   真鍋美恵子
  紋白蝶(もんしろ)などにほひなきものが空間に舞ひをり
  杳(とほ)き日のごとくにて     真鍋美恵子


  あなたとの対話よりしづかに聲だけを消せば海湛へくる
  空間があり             浜田 到


  さむざむと翳りもあらぬ空間にあらはれて弾く十本の指
                    小野茂
  見返らば吾を追ひやる空間の空しき中に眼をぞ見む
                    千代國一