天空のうた(3)
一首目については先に詳しく解説した。四首目は少しややこしい。寄物陳思の歌に入っている。中西進の『万葉集』を参考に意訳すると、「夜明けの布雲が遠く空にかかるように、遠くて逢うこともことばを交すこともできないが、仲を絶つというほど隔っているわけではないでしょう。」となる。
うたがたも言ひつつもあるか我れならば地(つち)には落ちず
空に消(け)なまし 作者未詳『万葉集』
久方の天つみ空に照る月の失せなむ日こそ我が恋止まめ
作者未詳『万葉集』
み空行く雲にもがもな今日行きて妹(いも)に言(こと)どひ
明日帰り来む 作者未詳『万葉集』
東細布(よこくも)の空ゆひき越し遠みこそ目言離(めことか)るらめ
絶ゆと隔てや 作者未詳『万葉集』
天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも
安倍仲麻呂『古今集』
大空は恋しき人の形見かはもの思ふごとに眺めらるらむ
酒井人真『古今集』