天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

花の詩情(6/6)

帰り花(北鎌倉・円覚寺にて)

あとがき
 平成二三年三月一一日、東日本大震災が発生した。大津波とその影響による原発事故が、桜でも知られるみちのくに甚大な被害をもたらした。その後、桜と震災を詠んだ短歌や俳句が多く発表され、被災地に思いをはせた。死者や行方不明者への鎮魂、被災者への慰め・元気づけになれば、との気持からである。
     みちのくの山河慟哭初桜        長谷川櫂
     桜散る行方不明者合わせては     松田ひろむ
     ふるさとを取り戻しゆく桜かな     照井 翠
     さくら咲け瓦礫の底の死者のため    矢島渚男
     塩竃の櫻は見るに手を添えよ      高橋睦郎
     みちのくはもとより泥土桜満つ    高野ムツオ
     さくら咲くかなしき國をかなしまず   黒田杏子
六年後の今年も被害の影響が小さかった桜の銘木は、美しい花を咲かせた。原発放射線による進入制限地区の桜の名所には、故郷を離れた被災者たちがバスを連ねて花見にきた。バスの中から窓越しに眺めるだけであったが、人々は歓声をあげて懐かしみ楽しんだ。東北のいくつかの地区では、津波到達地に桜を植え桜並木を造成するプロジェクトが発足して、後世の人々に津波の恐れがあるときにはその並木より上に避難するよう伝承していくという。
 桜はまちがいなく我々日本人の心を豊かにし、勇気を与えてくれる。


参考文献(主要なもの)
 (一) 堀信夫監修『芭蕉全句』小学館 
 (二) 藤田真一・清登典子『蕪村全句集』おうふう 
 (三) 高浜虚子選『子規句集』岩波文庫 
 (四) 『春 川崎展宏全句集』ふらんす堂
 (五) 『飴山 實全句集』 花神
 (六) 『季題別 山口誓子全句集』 本阿弥書店
 (七) 『季題別 飯田龍太全句集』 角川学芸出版
 (八) 西行山家集』 佐佐木信綱校訂、岩波文庫
 (九) 長谷川櫂編著『現代俳句の鑑賞101』 新書館
 (十) 長谷川櫂『吉野』 青磁
 (十一)麻生磯次、小高敏郎『詳解名句辞典』 創拓社
 (十二)長谷川櫂『国民的俳句百選』 講談社
 (十三)加藤郁也『江戸俳諧歳時記 上』平凡社
 (十四)川名 大『現代俳句 上下』 ちくま学芸文庫
 (十五)飯田蛇笏『現代俳句の批判と鑑賞』 角川文庫
 (十六)長谷川櫂『震災句集』 中央公論新社
 (十七)山本健吉『現代俳句 上下』角川選書