海のうた(5)
以下にあげた岡井と塚本の前衛短歌は、あまりに有名。岡井の歌は、二国間の政治状況の暗喩であり、塚本の歌は、戦争のやりきれなさを詠う。このように同時期の他の歌人の作品と並べてみると、現代短歌における前衛短歌の位置が際立つように感じる。
めざめしはなま暖き冬夜(ふゆよ)にてとめどなく海の
湧く音ぞする 佐藤佐太郎
今日一日風ににごれる海見えて図板の上に吾はうつ伏す
近藤芳美
海こえてかなしき婚をあせりたる権力のやわらかき部分見ゆ
岡井 隆
海底に夜ごとしづかに溶けゐつつあらむ。航空母艦も火夫も
塚本邦雄
目つむれど盈つることなき海のいろ重きまぶたに夜々夢む
清原令子
眼下はるかな紺青のうみ騒げるはわが胸ならむ靴紐むすぶ
福島泰樹
ものおもふひとひらの湖をたたへたる蔵王は千年なにもせぬなり
川野里子