天空のうた(8)
一首目、「月の船星の林」とは大変おしゃれな言葉使いである。古代エジプトの物語に出てきそうな情景になっている。業平の感性は独特のようだ。雲のない空にはかなさを見るとは。実兼は暁の雪景色と空の様子を巧みに表現している。
天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ
万葉集・柿本人麻呂集
中空に立ち居る雲のあともなく身のはかなくもなりにけるかな
在原業平『伊勢物語』
月影の見ゆるにつけて水底を天つ空とや思ひまどはむ
紀 貫之『貫之集』
などて君むなしき空に消えにけん淡雪だにもふればふる世に
和泉式部『和泉式部集』
よもすがらながめてだにもなぐさめむあけて見るべき秋の空かは
源 兼長『後拾遺集』
野も山もひとつにしらむ雪の色にうす雲くらきあさあけの空
藤原実兼『風雅集』