天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

天空のうた(11)

有明の空(webから)

 慈円の歌は、いかにも僧侶らしい感懐である。二条太皇大后宮・肥後の歌は、「柴をりをりに立つけぶり」が窮屈な表現になっているが、柴を折々に折って火を炊いて煙が立つ情景を詠んでいる。最後の良経の歌は、都の山の上に出た有明の月を見て、昔、ふたりで旅立った日の空を思い出しているのだろう。


  花ざかり春のやまべを見わたせば空さへにほふ心地こそすれ
                  藤原師通『千載集』
  月かげのいりぬるのちに思ふかな迷はむやみの行くすゑの空
                    慈円『千載集』
  山里の柴をりをりに立つけぶり人まれなりとそらに知るかな
                    肥後『千載集』
  ほのぼのと春こそ空に来にけらし天のかぐ山かすみたなびく
                 後鳥羽院新古今集
  空はなほかすみもやらず風さえて雪げにくもる春の夜の月
                 藤原良経『新古今集
  もろともに出でし空こそ忘られね都の山のありあけの月
                 藤原良経『新古今集