天空のうた(14)
以下のように並べて読み比べると、斎藤茂吉の歌の内容が際立つ。どんより曇った空など見たくもない、という気持なのだろうが、下句が少し大袈裟で思わず笑ってしまう。こうした詠み方があることを教えられる。柴生田稔の歌は不気味だが、戦争で日本の制空権を米軍にとられた状況を詠んでいるようでもある。あるいはUFOが現れたか(冗談!)。
ひさ方の天の遙けくほがらかに山は晴れたり花原の上に
伊藤左千夫
道の前途(ゆくて)はろけくとも直(ただ)に進み行かな
天は広し高し日は明(あか)し浄(きよ)し
佐佐木信綱
星満つる今宵の空の深緑かさなる星に深さ知られず
窪田空穂
どんよりと空は曇りて居りしとき二たび空を見ざりけるかも
斎藤茂吉
高畦(たかあぜ)の野菊に近くひそひそと空はゆふべを
青みたるかも 前田夕暮
わが空を飛ぶは我らがものならずと幾年(いくとせ)たたば
父は教へむ 柴生田稔
天(そら)に群星(むらぼし)草生(くさふ)に虫のこゑみつる夜の
いのり八万のたまにささげて 木俣 修