天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

吾輩には戒名も無い(2/8)

岡本一平画「漱石先生」

 犬や猫の死を丁寧に扱った文人として、夏目漱石がいる。『吾輩は猫である』のモデルになった猫が死んだ際には、死亡通知を友人たちに送った。墓標の表には「猫の墓」、裏には次の一句が書いてある。
     此下に稲妻起る宵あらん
松根東洋城から電報で、この名前のない猫の死を知らされた高浜虚子は、電文調カタカナ表記の次の句を詠んだ。
     ワガハイノカイミヨウモナキススキカナ
またヘクトーと名付けた犬は、乳離れした許りの小供の頃、宝生の弟子が風呂敷に包み電車に載せて、漱石宅まで連れて来られたのだが、それが死んだ時に漱石は、小さい白木の墓標を買って来させた。それへ「わが犬のために」として次の一句を書いて、猫の墓から東北へ一間ばかり離れた所に犬を埋め、その上に墓標を建てさせた。
     秋風の聞こえぬ土に埋めてやりぬ


[参考]右上の画像は、岡本一平画「漱石先生」(東北大学デジタルコレクション)
    から借用した。