俳句と短歌の交響(4/12)
本歌取り
山口誓子は、先人の研究成果を踏まえて丹念に芭蕉の俳句の本歌を調べている。源氏物語や古今和歌集との関係を詳しく説明している。西行との関係では、『山家集』と『芭蕉句集』とを読み比べている。西行歌を本歌取りした芭蕉句の例として、
年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけりさ夜の中山
西行
命なりわづかの笠の下涼ミ 芭蕉
すたか渡るいらごが崎をうたがひてなほきにかくる山帰りかな
西行
鷹一つ見付てうれしいらご崎 芭蕉
山ざとに誰を又こはよぶこ鳥ひとりのみこそ住まむと思ふに
西行
うき我をさびしがらせよかんこどり 芭蕉
くもりなきかがみの上にゐる塵を目にたててみる世と思はばや
西行
しら菊の目にたてて見る塵もなし 芭蕉
などを挙げている。
山口誓子は、西行の寂が芭蕉にどう受け継がれたかを検討した結果、西行には「寂」のみがあったのに、芭蕉には「寂」に「静」が加わり、「寂静」となった、という。西行の口ぶりをまねたと思われる芭蕉の句調に、「いざ落花」「いざともに」「いざさらば」「いざ行かむ」「いざ出む」「いでや」 など多数ある。