天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

コミック短歌(3/12)

五柳書院刊

破調の度合い
五七五七七の韻律の崩れの度合い(熔融度)を定量化することが要請される。微妙な韻律を検討するに当たり、ここでは、小池光の考え方を採用する。具体的分析については、彼の「リズム考」(『街角の事物たち』平成三年一月刊、五柳書院)並びに、「短歌を考える」(『短歌研究』(2007年7月号)をベースにする。即ち小池によれば、短歌とは
(1)短歌は五小節より成るあるリズム形式である。
(2)第一、第三小節は同一の緩形式であり、第二、第四、第五小節は
  同一の急形式である。
(3)第一、第三小節の後には休止符をもつ。
一首のリズムの骨格を決定して行くのは、初句三句結句の奇数句であり、二句四句は、ツナギの、ナガレの句である、とする。
そして小池は、破調の及ぼす影響について、A増音破調(初句、三句、結句、二句、四句)、B減音破調(初句、二句、三句、四句、結句)のそれぞれにつき、短歌らしさの崩れの度合いを論じている。
A1初句増音: 七七五七七が自然な破調。六七五七七は要注意。抵抗力が大きい。
A2三句増音: 高度のテクニック。五七六六七のみ可能と思ってまずまちがいはない。
        それ以上はウルトラC。
A3結句増音: 流れどめ、抒情の阻止機能。五七五七八にとどめるのが無難。
A4二句増音: かなり自由。十音位までは可能。
A5四句増音: 一番自由。十音はらくらく可能。結果へのなだれ込み方に
        より加速度を与える。
B1初句減音: 日常使える唯一の減音破調。二句以降の短歌らしさがある
        場合にはことさら鮮やかに目立つ。四音のまくらことばが
        生き残れた理由であろう。
B2二句減音: 非常に禁制度大。緩急のアクセントが失われ、上句は全く
        短歌らしくなくなってしまう。
B3三句減音: これは全く不可能。五七四七七は短歌ではありえない。
        禁制度最大。
B4四句減音: 二句減音型と同じこと。ごく稀な例はある。
B5結句減音: 禁制度がそれほど高くないが、引用したい例がない。
        下句は散文、詩への解体である。歌ならざるものへ、
        歌が飛翔してゆく。
以上のことを仮に「増音減音の法則」と呼ぶことにする。
 二番目の熔融度の尺度としては、抒情性の濃淡がある。具体的には、歌語・歌枕の有無や措辞の散文化を見る。そして三番目には、伝統的技法(枕詞、序詞、掛詞、本歌取りなど)の有無を調べることである。