コミック短歌(5/12)
塚本邦雄と穂村弘
変容の傾向を見るために、文語短歌の代表として塚本邦雄を、口語短歌の代表として穂村弘を取りあげ、各々の作品の構造を調べることにしよう。
小池光の「リズム考」の観点(仮称「増音減音の法則」)から、穂村弘の三歌集『シンジケート』、『ドライドライアイス』、『手紙魔まみ・夏の引越し』を分析した。同様に塚本邦雄の序数最終歌集『約翰傳偽書(ヨハネでんぎしよ)』を分析し、両者のリズムの傾向を比較してみた。比較結果を先に言えば、次表のようになり、傾向としてよく似ているということ。なお、穂村の三歌集は類似の分布を持っているので、ここでは平均値を示しておく。「増音減音の法則」によって、禁制度の高い二句減音、三句減音、四句減音などの率が低いことも共通している。ただ、塚本の場合は、初句増音と結句減音が少し極端に現れている。口語短歌主体の穂村の正調が文語短歌の塚本の正調よりも率として多いことは注目に値しよう。また高度のテクニックを要する三句増音が、塚本の倍以上あることは興味深い。
穂村弘 塚本邦雄
全歌数 592 453
正調 36% 24%
初句増音 33% 52%
三句増音 13% 6%
結句増音 9% 9%
二句増音 15% 6%
四句増音 17% 21%
初句減音 2% 3%
二句減音 8% 3%
三句減音 2% 1%
四句減音 5% 6%
結句減音 6% 12%
注釈として、ここでの正調とは、無理のない句跨りを含むこと、一首がどこかの句で増音になり他の句で減音になっている場合には、両方にカウントしたこと、穂村の文語入り短歌は8%程度あること などをあげておく。