天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

さまざまな直喩(8/13)

高浜虚子

俳句における直喩の変遷
江戸期から現代に到る過程で、俳句に現れた直喩を時代を追ってみてみよう。芭蕉の用いた直喩の種類は少なかったが、蕪村はその種類を一挙に拡張し、一茶がそれに続いた。分析結果では次のようになった。
  芭蕉(4種) → 蕪村(17種) → 一茶(18種)
  蕪村特有の表現: こころ、―かと、―ぶり、―がち、けしき、―加減
  一茶特有の表現: ―つき、もどき、見ゆ、―ぎつた
近代以降も一茶ほど多くの種類を用いた俳人は見当らない。蕪村を称揚した正岡子規は、喩の表現が豊富になったのは、蕪村を嚆矢とする、と指摘している。
分析した十三人のそれぞれが一番よく用いた直喩表現は、次のようである。
  芭蕉、蕪村、漱石、龍之介:「似」(蕪村には「皃(かお)」も)。 一茶:「やう」。
  子規、虚子、茅舎、たかし、誓子、草田男、展宏、裕明:「如」。
一番使用頻度の高い「如」について、各人の「如」句数は次のようである。
  芭蕉:1句、 蕪村:2句、 一茶:1句、 子規:5句、 虚子:82句、
  茅舎:68句、 たかし:22句、 誓子:16句、 草田男:50句、
  展宏:29句、 裕明: 54句、 漱石:7句、 龍之介:0句
こうして見ると、江戸期には「如(ごと)」は、直喩の代表ではなかったこと、明治以降、虚子によって広まり代表的直喩表現になったことが明らかである。
 「如(ごと)」句の構造を、A如(ごと)Bとして、AとBそれぞれの表現を考慮すると、組合せによる種類は46程度になる。虚子の使用種類数は33種であり、突出している。以下、茅舎19種、草田男18種、裕明17種、展宏15種 などと続く。