以下の一連では、肉体を離れた魂を詠んでいる。自分のものか他人のものか、もはや区別をつけがたい。岡野弘彦の歌の下句の直喩は、すこやかに感じられて好感が持てる。喜多弘樹の魂と対照的。
たましひは自然(じねん) 自在にゆらぎいで あめんぼのごとく
水の上ゆく 岡野弘彦
癒されぬこのたましひを蹴りあげてひとつ星座となりゆくしじま
喜多弘樹
雲在りて空の深さが沁みてくるいまは何処にわが魂遊ぶ
高瀬隆和
満開の夜桜の下に立ちてよりたましひ何時もざわめきやまず
郷原艸夫
自らの霊(たま)をかすかに嗅ぐごとき夜の白罌粟のかたはらをすぐ
犬飼志げの
地の霊にはぐくまれたるおのれよと土舞ふ中に身を佇(た)たしむる
石川一成
古電球あまた捨てきぬ裏の崖ゆきどころなき霊も来ていし
伊藤一彦
こまやかに光満ちゐる水の上(へ)をかげなく過ぐる霊は旅人
伊藤一彦