天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

色を詠む(1/4)

 色の語源は、「うるわし(麗)」の「うる」あるいは「うるう(潤)」からの転といい、色彩や顔色を意味したが、美しい容色、けはい、様子、情趣、色情などをも表すようになった。  
このシリーズでは、「色(いろ)」という文字を詠み込んだ(つまり字縛り)作品を取り上げる。

 

  いふ言(こと)の恐(かしこ)き国ぞ紅(くれなひ)の色にな出でそ思ひ死ぬとも
                  万葉集大伴坂上郎女
  竹藪(たかしき)のうへかた山は紅の八入(やしほ)の色になりにけるかも
                     万葉集・小判官
  花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
                    古今集小野小町
  いろかはる秋の菊をば一年にふたたびにほふ花とこそ見れ
                  古今集・よみ人しらず
  今はてふ心つくばのやま見ればこずゑよりこそ色かはりけれ
                   後撰集・読人しらず
  薄くこく乱れて咲ける藤の花ひとしき色はあらじとぞおもふ
                    拾遺集藤原実頼
  名をきけばむかしながらの山なれどしぐるるころは色かはりけり
                     拾遺集・源 順

 

 一首目: 大伴坂上郎女が詠んだ七首の恋歌のうちのひとつ。恋が人の噂になることの恐ろしさを詠んだもの。
 二首目: 新羅使の一行が竹敷浦(今の竹敷港)に碇泊した時の歌十八首のうちの一つで、小判官(大蔵忌寸麿)の作。「八入の色」は幾度も染めた真赤な色という意味。
 古今集小野小町の歌は、教科書にも出ていて有名。
 藤原実頼は、多才多趣味の人で、和歌以外にも笙・箏の名手として知られた。きちんとした性格で人の模範にされたという。
 源順は三十六歌仙の一人で、大変な才人として知られていた。私家集『源順集』には、数々の言葉遊びの技巧を凝らした和歌が収められている。

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菊の花