匂い・匂うの歌(3/8)
こち吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな
拾遺集・菅原道真
行くみづの岸ににほへる女郎花しのびに浪や思ひかくらむ
拾遺集・源 重之
かばかりのにほひなりとも梅の花しづが垣根を思ひわするな
後拾遺集・弁乳母
植ゑおきし人なきやどの桜花にほひばかりぞかはさらざりける
後拾遺集・読人しらず
梅の花にほふあたりの夕ぐれはあやなくひとにあやまたれつつ
後拾遺集・大中臣能宜
春の夜のやみにしなれば匂ひ来る梅よりほかの花なかりけり
後拾遺集・藤原公任
夜もすがら花のにほひを思ひやるこころや嶺に旅寝しつらむ
千載集・覚性法親王
一首目は、あまりにも有名。説明不要。
二首目の詞書には「三條太政大臣の家にて歌人めし集めてあまたの題よませ侍りけるに岸のほとりの花といふことを」とある。浪が岸辺に咲く女郎花に人目を忍んで恋しているだろう、とたわむれた。
後の歌は理解容易であろうか。千載集・覚性法親王の歌は、一晩中、遠い山の桜が美しく咲くさまに想いを馳せて過ごす私の心は、山へあこがれて行って、頂で野宿してしまうことになるのだろうか、という意味。