神を詠む(1/9)
神秘的な力を信じて畏怖する対象物。「かみ(上)」と同源という説がある。即ち、「か」は「かぶる(被)」「かさねる(重)」と同根で、「み」は「も(方)」の転。
玉(たま)葛(かづら)実ならぬに樹にはちはやぶる神そ着くとふならぬ樹ごとに
万葉集・大伴宿祢
三(み)諸(もろ)の神の神(かむ)杉(すぎ)夢にだに見むとすれども寝(い)ねぬ夜ぞ多き
万葉集・高市皇子
王(おほきみ)は神にし座(ま)せば天(あま)雲(くも)の五百重(いほへ)が下に
隠(かく)り給ひぬ 万葉集・置始東人
大王は神にし座(ま)せば天(あま)雲(くも)の雷の上に廬らせるかも
万葉集・柿本人麿
如何ならむ名を負ふ神に手(た)向(むけ)せばわが思ふ妹を夢にだに見む
万葉集・柿本人麿歌集
神の如(ごと)聞ゆる滝(たぎ)の白波の面(おも)知る君が見えぬこのころ
万葉集・作者未詳
大船(おほぶね)に真(ま)楫(かぢ)繁貫(しじぬ)きこの吾子を韓国(からくに)
一首目: 大伴宿禰が巨勢郎女を口説いた時の一首。神が着くというのは、恋愛期を過ぎることを意味する。あなただって実のならない樹になりますよ。
二首目: この歌は十市皇女が亡くなったときに高市皇子が詠んだ三首の挽歌のうちのひとつ。「三輪山の神の神杉のような愛しい皇女よ。夢にのみ見て共に寝ることのできない夜の長かったことだ。」という意味。
光明皇后の歌は、入唐大使藤原朝臣清河に賜ったもの。「大船に櫂をたくさん取りつけて、この我が子を唐の国へ遣わします。どうかお守りください、神々よ。」航海の無事を神に祈る。